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5-9 映画のシステムは変わる。


 その世界にどっぷりはまったものには当たり前のことでも、部外者にとってみれば「?」ということがある。はじめて映画の製作に参加してみるといろいろな発見があった。
いいこともあるし、おかしいと思うこともあった。
 制作スタッフのキビキビとした動きは、やはり気持ちの良いものだった。
 撮影部にしろ、照明部にしろ、録音部にしろ、トップの下にチーフ、セカンド、サードといった若い人たちがついていて、何かひとつでも獲ようという狩人の目を光らせながら、指示のもとでテキパキと自分の仕事をする。原動力は、金ではなく、肩書きでもなく、きっと夢だろうと思わせる職人の誇りや厳しさがすでに肩や背中に息づいているようで、その動きを見ているだけでうれしくなる。
 文句をいうことでしか自身を主張できない大企業の若者とは正反対だ。寡黙に、黙々と動く。間違いなく彼らの動きが映画の質を左右している。
 その昔は広告プロダクションにもこのような若者はたくさんいた。上司の厳しいチェックにも耐え、修正、修正で睡眠時間を削られても、少しでも何かを盗んで上をめざす野良犬のような目をした若者がたくさんいた。
 しかし広告がビジネスとして確立されてからは、“就職”しにきた者が大半になった。昨今の広告の低下は、このことと無縁ではないと思っている。
 一方で映画界が遅れているなと思うことは、制作ではなくビジネスとしてのシステムだ。
 たとえば収益の分配。私はまったく知らなかったけれど、一千八百円の入場料の約半分を劇場がとる。残った半分、つまり一千八百円の四分の一を配給会社がとり、制作には残りの四分の一の四百五十円しか入らないのだ。
 産みの苦しみを乗り越えて制作した者より、劇場を持っている者の方が儲かるのだ。ましてや上映を望む映画はたくさんあるので、劇場の要求は強気になる一方で、ある額以上の宣伝をするのならという条件をつけてくる。
 それでなくても製作費の乏しい独立系の制作会社には辛い現実だ。映画界の人は、長年そのシステムで動いているので、こんな劇場依存型のシステムをおかしいとは思っていないようだけれど、他の世界からきた私にしてみれば制作者の取り分が四分の一だなんて驚きだ。
 制作者の取り分が少しでも多くなれば、同じ質の映画を、少しでも低い製作費で撮ることができるのだ。そうなると映画制作に参加できるハードルはぐっと低くなる。
「パッチギ」や「フラガール」など名作を連発しているシネカノンという会社が、制作と配給以外にも劇場を持つようになったのは、こんな映画界の旧態依然としたシステムへの布告だと思う。
 しかし時代は変わる。映画のシステムも必ず変わる。
 媒体依存型のシステムを確立した広告代理店が、ここにきて苦戦している。いや、変革を余儀なくされている。年々、インターネットにおける広告費の割合が高まっているからだ。
 これと同じことが映画業界にも言えると思う。“映画を観る場所は劇場”という概念がインターネットをはじめとする高速通信網の発達で変わるはずだからだ。
 これまでは劇場上映をあきらめると自主上映しか手段はなかった。今後はインターネットで上映するなんてことも十分考えることができる。有料にしたり、広告をとったりで、収益を得る方法はいろいろと考えればいい。
 この傾向は、地方で映画を作ろうという人には歓迎すべきことで、いままで以上に少ない負担で制作することができるようになるのだ。インターネットの優れたところは、いい物さえアップデートすれば、あっという間に広まるというところにある。
「何いっているんだよ、映画は劇場で観なければ」
 そう言う人はきっといる。
「何がインターネットだよ、広告はテレビだよ」
 と言っていた広告代理店が、今では顔を青ざめさせてインターネット系の優良会社を高い金を払って吸収している。要は、テレビでもいい、イベントでもいい、自分の都合のいいシステムを一番だと思いたいだけなのだ。広告制作者も同じで、テレビCFや新聞やポスターが広告の王道だと思いたい。新しいシステムを認めたくない心が、インターネットを見下したり、否定したりするのだ。
 時代は自分の都合などおかまいなく前進していく。消費者はより便利で、より安いものに引かれていく。
 同じことが映画界にも言えるはずだ。インターネットや高速通信の発達は、確実に映画の観方を変えるだろう。大型の劇場がシネコンへと形態を変えることで生き延びてはいるが、その次のカタチとなると見えていないはずだ。劇場はますます淘汰されていくことになるだろう。
 習慣なんてあっという間に変わる。
 映画は劇場で観るもの、そう信じるところが旧態依然なのだ。

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