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5-7 素敵なキチガイがいるか。


 第二には、企画を強力に推進する人がいたことだろう。
 撮影にこぎつけるまでの白羽監督の執念はすさまじいものがあったし、私もそうだし、藤岡さんも、自分の仕事のフィールドを超えた動きをした。その行動が人の心を打ち、人を動かしたのは事実だ。
 ビジネス的観点から見ると、映画づくりに参加することはリスキーなこと以外の何ものでもない。ヒットしたら利益が生まれるかもしれない。あくまでも予測で、行動に対する対価が読めないからだ。
 それでも参加するというのは、お堅いビジネスマンからみれば「?」ということになるのだろう。
 支援をお願いするために企業まわりをしているとき、説明を終えたあとで相手のビジネスマン、特にお堅い企業の方の何人かがこう言った。
「映画って聞けば聞くほど、好きじゃないとできませんね」
「ほんと、儲かりませんからね。好きじゃないとできませんよ」
 相手はにこやかにおっしゃり、私たちもにこやかに返すが、相手の本音はよくもまあこんな危険なことをしているな、ということだろう。
 確かに儲かる儲からないという点でいえば、儲かる仕事は他にいくらでもあるだろう。それでも参加するということは、特に誰に強制されたわけでもないのに参加するということは、好き以外の何ものでもなく、それが他の人から見れば狂気の沙汰に映るのだろう。
 しかし机上でそろばんを弾いているだけの人間に、どれだけのことができるだろう。映画に限らない、どんな仕事でも成果というものは、どこか採算を度外視した行動を行った者にのみ降りてくるものではないだろうか。
 物作りに携わる人間には、特にそういえる。志を高く掲げ、がむしゃにがんばってきたクリエータが会社を興し、経営者になって数年もすると、創るものがまったく面白くなくなるというのはよく聞く話しだ。
 映画の撮影中、撮影監督の山本さんと俳優の本田博太郎さん、そしてプロデューサーの溝上さん、亀田さん、そして私の五人で、輪島でお気に入りの寿司屋さん「伸福」で食事をした時だった。
 韓国の映画監督キム・キドクの話題となり、キム・キドクがいかに素晴らしいのか、いかに狂っているのかについて、山本さんと本田さんが熱く語ったあと、山本さんがこう言った。
「現場で素敵なキチガイと出会いたいんだよ。素敵なキチガイと仕事がしたいんだよ」
 ここで山本さんが素晴らしいなと思ったのは、“キチガイ”ではなく“素敵なキチガイ”と表現したところだ。“素敵な”がつかない“キチガイ”は、現場と作品を混乱させるだけなのだから。
 素敵なキチガイが揃った現場は熱い方向へ転がっていく。企画段階も同じで、素敵なキチガイがいるかいないかで推進力も大きく変わっていく。
 映画の撮影中、私の母が亡くなった。いったん大阪に戻り、野辺の送りを終え、一週間後に現場へ戻ってきたとき、私は泉さんに呼ばれた。
 私がいない間に、泉さんは私のこれまでの取り組みを誰から聞かれたようだ。そして戻ってきた私にこう言った。
「おまえはバカだ。いや、大バカだ。けれど一人くらい大バカがいないと面白いものはできない。世の中、中途半端なバカばかりだからな。母上はちゃんとお見送りをしたな。よし」
 泉さんに頭をさげて、現場へ戻る途中、あまりのうれしさに涙がこぼれた。

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