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5-5 文化庁の助成金という危ない橋。


 映画は賭けではなくビジネスだというのが溝上さんの持論。だから今回の企画段階でも決して無謀なことはしなかった。
 しかし唯一、賭けにでたことがあった。文化庁の助成金に関してだ。
 今回の製作費については当初から文化庁の助成金をあてにしていた。
 文化庁は日本文化の向上のためには、さまざまな芸術活動を広範囲に支援している。
 それは映画に限ったことではなく、文学、音楽、演劇、絵画、舞踏、演芸、さらには伝統芸能と多岐にわたる芸術の振興をはかっている。
 映画に関していえば、「日本映画・映像振興プラン」があって、映画製作の支援や国内外での上映支援、さらには人材支援などを行っている。
 日本で映画を製作する場合、製作者がまず考えるのは「文化芸術振興費補助金」の支援を得ることだろう。
「意欲的な企画作品の映画製作」、「新人監督やシナリオ作家を起用した映画製作」、「地域において企画・制作される映画製作」、そのいずれかに該当する映画企画で、製作費が五千万円以上、上映時間が一時間以上の企画であれば審査に応募することができる。
 公募は年二回行われる。
 支援額は、およそ映画製作に要する費用の三分の一まで。審査に通ったからといって満額降りることはめずらしく、たいていは製作費の三分の一の、その七十%くらいが多い。
 私たちが審査に応募する予定でいたのは、平成十九年度の「地域において企画・製作された映画製作部門」、その第二回目の公募だった。
 能登半島地震によって脚本が大きく変わり、印刷脚本の完成を待って応募するとなると、第一回の公募はとても間に合わない。しかたなく私たちは、締め切りが平成十九年七月二十日の第二回目に応募した。
 審査は有識者で構成されている文化芸術振興費補助金審査員会が行う。各委員が脚本を読んで選定していくのだ。
 プロデューサーによるプレゼンテーションや派手な企画書などは一切受け付けないで脚本の良し悪しだけで選別していく。脚本のできがすべてなのだ。
 第二回の「地域において企画・制作される映画製作」へは十二本の応募があったという。選ばれるのはそのうちの三本。四倍の競争率というわけだ。
 脚本の出来に自信はあったものの、審査である限り百パーセントの確証はありえない。もし落ちるようなことがあれば、奥能登開発基金からの一千万円もなくなってしまう。
 さらに私たちプロデューサーを不安にさせていたのは発表・交付の日だ。
 正式交付は十月十日。
 その日は実に『能登の花ヨメ』クランクインの当日だったのだ。
 能登半島地震によって脚本を練り直し、半年後に撮影という強行軍だったから、文化庁への応募も平行作業になってしまったことは仕方ないことだ。
 問題は万が一、落選した場合だ。
 それでなくても製作費の集まりが鈍いなかで、さらに三千万円相当の金額をどうやって穴埋めすればいいのか?
 集める算段がたたない場合は中止するのか?
 キャストも決まっている。スタッフも決まっている。みんな能登入りをすませて晴の撮影初日を迎えている。そんな状況で中止なんてできるのだろうか?現場が動きだしているのに中止をしたら、プロデューサー陣と白羽監督は、一生、映画界で仕事をすることはできないだろう。
「落っこちたら海へ飛び込むしかないよね」
 溝上さんは自嘲気味に呟いたけれど、それは悪い冗談ともいっていられなかった。落ちたときのことを考えると夜も眠れないというのが正直な気持ちだったはずだ。
 そして結果は、見事合格だった。それも製作費の三分の一の満額、三千百万円が支援されることになった。
 この結果は腰が抜けそうになるほどうれしかった。
 地方を舞台にした映画で、さらに震災の復興を映画で支援する企画が評価されないわけがないとは思った。あれほど修正を重ねて、ときには冷たい空気が流れるほど意見をぶつけあいながら磨きあげていった脚本が落ちるわけがないとも思っていた。
 ただ確証は誰も持てなかったのでつねに不安はつきまとい、つい最悪の事態を想像することをやめることはできなかった。
 目の前では撮影が行われている。その横で東京にいる溝上さんから合格の連絡を受けた亀田さんと私は、うれしさのあまり、思わずその場にしゃがみこんでしまった。

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