« 3-6 石川県で支援組織が生まれる。 | トップページ | 3-4 密かな裏切り。 »

3-5 東京サイドもエンジン全開。


 東京では国井さんが招かれて、さっそく脚本の練り直しがはじめられた。
 キリコ祭りをクライマックスにもってくること以外は大幅に書き換えることになった。
 辻調理師専門学校の先生方による講習会の収穫もあって、もっと料理にスポットを当てた映画にすることに決まった。能登は食材の宝庫なのだ。みすみすその事実を見逃す手はない。
 作業としては、また一からである。
 国井さんがシノプシスをあげて、それを検討して、修正して、あがったシノプシスを再び検討してハコ書きへ進化させていく。ハコ書きをさらに検討して、修正して。そんな作業を何度も繰り返す。時間はかかる。待つのも映画の大切な仕事なのだ。
 シノプシスを何度かあげた段階でもう一度シナリオハンティングへでかることになった。白羽監督や溝上さんや私は何度も訪れているけれど、国井さんは去年に一度、あわただしくまわっただけだ。
「ここはひとつ、能登・金沢の空気を吸って、あらためて脚本にリアルな息吹を吹き込んで頂きたい」
 この一年で急に売れっ子になった国井さんを白羽監督と溝上さんが口説いて、なんとか時間をつくってもらった。
 十月二十五日から二泊三日の予定でシナリオハンティングを決行した。
 参加者は国井さん、白羽監督、そして私。
 土地や風景を巡るのも大事だが、土地に生きる「ひと」、その人がつくりだす「味」と出会うこともより重要。金沢のお店で働く方々や、能登の農場で働く方々に取材することをテーマにした。
 初日は金沢市内。近江市場や茶屋街を取材した。
 翌日は穴水町役場の岡崎さんの案内で、能登でとびきりおいしい米をつくっている農家宅を取材した。
 今回のシナリオハンティングの最重要課題として「農業に従事している青年を探す」というのがあった。
 「川原農産」の川原さんは二十九歳の好青年。東京の大学で農業を学んだ後、地元の輪島市町野町へ戻ってきて親といっしょに米や野菜や果物をつくっている。
 農業への情熱と生産理論はハンパではなく、成果となる米や野菜や果物はどれもとびきりのおいしさだった。昼食にいただいたおにぎりや焼き栗は、これまで食べていたおにぎりは何だったのかと疑いたくなるほど絶品だった。
 焼き栗もおいしい。午後に連れて行ってもらった、山の上のリンゴ園のりんごもおいしい。しかしこのおいしさを手に入れるために、日々どれだけの苦労をしていることかと想像してしまうけれど、川原さんは首を振って楽しみなんですと笑う。苦労を苦労と思わず取り組むところからこの味が生まれるんだなと、みんな納得した。
 ちなみに映画の撮影中、川原さんはおにぎりと焼き栗を差し入れしてくれた。お米が大好きな泉ピン子さんは一口食べるなり
「おいしい!」
 とうなり、
「これは橋田先生やスタッフにとどけなくては」
 といって、お米と焼き栗を大量に注文した。それほどおいしいお米と栗なのだ。
 ちなみに川原さんは経営にも意欲的で、首都圏で対面販売をする「青空市場」やネット通販にも積極的に取り組んでいるのだ。
 川原農産を失礼した後は、映画のメイン舞台にどうかと考えている海辺の洋館を視察した。
 白い洋館は能登島を見渡せる海辺という絶好のロケーションにあった。
 内灘の海はとても穏やかで、光を受けて輝いている。建物の前にはパーティーが十分に開ける広さの庭があって、端の方には野菜やハーブが育っている。海辺のレストランとしては理想的だった。
「思い通りの所ね」
 まばゆい海に目を細めながら国井さんは満足そうに呟き、風景や建物をデジタルカメラで撮影した。
 この場所を紹介した岡崎さんは小さくガッツポーズをした。岡崎さんはメインロケ地が穴水のどこかになることが念願なのだ。

|

« 3-6 石川県で支援組織が生まれる。 | トップページ | 3-4 密かな裏切り。 »

第3章 明けない夜はない。」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1008911/20917629

この記事へのトラックバック一覧です: 3-5 東京サイドもエンジン全開。:

« 3-6 石川県で支援組織が生まれる。 | トップページ | 3-4 密かな裏切り。 »