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3-3 賽は投げられた。


 企画した私が会議の進行を担当するが、緊張のあまりうまくしゃべれない。
 酒の席ではにぎやかで饒舌な私だが、関西人なのに緊張しいのあがり症なのだ。その場の空気に馴染むまで時間がかかる。馴染んでしまえばこっちのものなのだが。
 石川県庁の堀岡さんが助け船をだしてくださる。集まっていただいたお礼から今後のことについて堀岡さんを中心として会議が進む。
 その席上、堀岡さんから驚く提案があった。
 石川県としても、私個人としても、能登の活性化のためにこの映画を実現させたい。しかし県から金をだすことはなかなかむずかしい。そこで考えたのだが、前売りチケットを保証するという協力はどうだろう。幸い『釣りバカ日誌』のときにそれぞれの市町村で前売りチケットを購入した実績がある。県をあげて支援した『釣りバカ日誌』と『海とキリコとアオイ』とでは、規模も状況も違うので同じ枚数を確約することはできないけれど、能登を中心に三万枚ほどなら見当がつく。いかがなものだろう?
 堀岡さんはこの会議へ参加するにあたり、私たちの知らないところで真剣に考えてくださっていたのだ。
 私は白羽監督と溝上さんの反応をみた。
 溝上さんは大きくうなずいた。それを合図に白羽監督が機関銃のごとく、堀岡さんの提案がどれほど大きな、意義のあるものなのかを語った。溝上さんも静かな口調でどれほどありがたい提案なのかを語った。
 能登地方だけで前売りチケットが三万枚も確約していだけるということは、一枚が千三百円として三千九百万円の売り上げ、一千円で売ったとしても三千万円の売り上げが確約されたことになる。
 チケット購入の契約書さえかわすことができたら、それを担保に金融機関から制作費を借りることだって可能だ。
 F氏の一千万円に、前売りチケット保証による三千万円。これに文化庁の助成金の二千万円、奥能登開発基金からの一千万を合計すると七千万円が集まる計算になる。
 上映前から三千万以上の売り上げが保証されているとなると配給会社との交渉も有利に進めることができるだろう。
 思ってもいなかった提案に会議は熱を帯びはじめ、最後は軽い興奮状態のなかで終わった。誰もが笑顔だった。誰もが明日への光を見た心持ちになっていた。
 会議終了後、白羽監督、溝上さん、藤岡さん、そして私の四人で香林坊まで戻り、私たちの贔屓の居酒屋「いたる」で祝杯をあげた。
 白羽監督は高揚して顔も言葉もはちきれそうになっている。
 溝上さんが詳しく説明したおかげで、藤岡さんも堀岡さんの提案がどれだけ価値あるものなのかがわかって、それならば私だって他に手だてがあるとアイデアを次々に披露してくれた。それまで何ヵ月も停滞していた企画がやっと重い腰をあげて動きだそうとする手応えを誰もが感じた夜だった。
 藤岡さんと別れてから、私たちはさらにもう一件、白羽監督お気に入りのバー、「広坂ハイボール」へ行った。
 その店へ向かう途中で、溝上さんは東京にいる亀田さんに電話で事の次第を報告している。
「カメちゃん、動くよ」
 溝上さんは白羽監督や私の顔を見て笑った。
 店に入ると溝上さんは
「乾杯しましょう」
 といってシャンパンのボトルを抜いてくれた。
「西林さん、そろそろ腹をくくりましょうか」
 溝上さんはそういって、F氏からの資金を使って本格的に脚本の練り直しにかかろうと提案された。この提案は東京サイドが本気になったことを示す重大な一言だった。
「ダメになったらみんなで弁償しましょう」
「いくら振り込みましょうか?」
「半分ほどいただけますか」
「わかりました」
「じゃ、成功に乾杯!」
 そういって私たちはその夜、何度目かの乾杯をした。

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第3章 明けない夜はない。」カテゴリの記事

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