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2-7 動かない。まったく動かない。


 脚本をさらに発展させよう。どうせなら抜本的に変えようと改定作業が始まろうとしていた。
 能登という魅力的な食材の宝庫を映画の舞台にするのだから、もっと食にこだわって、いままでの日本映画界にはないグルメな映画にしよう。
 私は以前から辻調理師専門学校の広告の仕事をお手伝いさせていただいていた。仲の良い先生方に映画の説明に伺い、料理監修のお願いをすることにした。
 広報室長の小山氏は詩人の顔ももつ文化人で、映画にも明るい方。一生に一度は本格的に映画と関わりたかったなんで、私と同じようなことをおっしゃってうれしくなってしまった。
 教授の肥田先生は若い頃は世界中を放浪して、各地の料理を勉強されたという、映画の主人公、雄一郎の役を地でいかれたような方。料理の知識もさることながら、穏やかな口調で世界の料理について説明される姿には大人の色気のようなものが滲んでいて格好良かった。
 みなさん映画への協力には前向きに取り組んでくださるとうれしい返事をいただいた。
 制作面の体勢は着々と固まっていくけれど、肝心の資金集めはというといっこうにぱっとしなかった。というかまったく動きがなかった。
 自分たちでお金をつくらなければならなくなってからというもの、私と白羽監督は毎月のように金沢・能登入りするようになった。
 手元の手帳を繰ってみるとこんな具合だった。

 五月十七日、金沢。
 五月十八日、七尾、輪島。
 五月二十九日、金沢。
 五月三十日、珠洲、輪島。
 六月十日、金沢。
 六月十一日、輪島。
 六月二十二日、金沢。
 七月二日、金沢。
 七月三日、白山。
 七月十一日、金沢。
 七月十二日、輪島。

 もちろん観光で移動していたのではない。
 私たちは毎月のように金沢入りしているが、観光をしたのは時間潰しのために二十一世紀美術館を訪れたくらいで、私は未だに兼六園に行ったことはない。
 県庁の方や支援者から、この人に話をもっていくといいとか、この企業なら人肌ぬいでくれるはずだという情報や紹介を得て、企画の趣旨を説明に伺うのだ。
 東京へも何度も行った。石川県出身者が経営している企業へ協力をお願いするためだ
 白羽監督と私はどんな小さな糸口だって捨てずにたぐっていった。
 溺れるものは藁をもつかむというやつだ。東京での脚本会議などで白羽監督が動けないときは、私ひとりでも説明に行った。
 しかし動かなかった。
 誰もが私たちの話を聞いてくれる。映画で能登のすばらしさを全国へアピールすることにも賛同してくれる。すばらしい企画だ。応援する。がんばってほしい。みなさんがみなさんそうおっしゃってくれる。
 しかし私たちがいま必要としているのは映画づくりの資金なのだ。金銭面での協力を求めているのだ。
 そのことに話が進むと、にこやかに微笑んでいた顔に陰が射したり、とうとう来たかと横を向かれたり、「うむ」とか「ああ」とか急に言葉が濁ったり表情が曖昧になったりする。応援することと、お金をだすことは別なのだ。そこで空気が冷える。会話がとぎれる。
 時期も悪かった。
 その年の五月に、松竹映画の『釣りバカ日誌十七 あとは能登なれ ハマとなれ』が石川県で撮影されることになっていることは先にも書いた。
 県をあげてロケを招聘したとかで、能登の各市町村にも、人と金の両面からの協力依頼が降りていた。
『釣りバカ日誌』はメジャー映画だから県や市町村への要望もハンパではなく、私たちがお願いにまわっている時期は、無数のイナゴの大群が通り過ぎた後の畑のように、県や各市町村の予算はすっかり食い尽くされてしまっていた。
 思えば支援者の、細く、小さなツテをたよって、たぐって、 監督とふたりで毎月のように行脚しているけれど、あそこに小さな光があると見つけてはよろこび、 近づくとふっ消えてしまって消沈する。
 金沢行きのサンダーバードのなかでは小さな期待に胸を躍らせて、そこはかとなく高揚しながらおしゃべりに花を咲かせて向かうけれど、大阪へ帰る車内では口数も少なく、うなだれぎみに車窓の風景を眺めるか、首を肩に落として眠ってしまう、そんな泣き笑いの連続だった。
 それでも白羽監督はめげなかった。夜になると、うまい魚とお酒で一日の疲れを癒す。
 その席で白羽監督は、
「九回断られても十回目に協力してくれる人と出会えればいい」
 といって笑うのだった。
 この態度は個人的にとても勉強になった。

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