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2-4 某社長にお願い、一千万を約束してもらう。

 お金を集めなければいけなくなった。
 誰に話しをもっていけばいいのだろう?まず頭に浮かんだのは弱冠三十三歳の事業家F氏だった。
 映画の出資の話を聞いてくれる人はたくさんいる。しかしすぐにお金を都合できる人間となると勤め人では無理だ。自分の判断でお金を動かせる経営者しかいない。
 私は以前からF氏の会社の広告やプロモーションのお手伝いさせていただいていた。青春時代をラグビーに捧げ、学生時代には華やかな成績をのこされた方だ。
 仕事や遊びも豪快だが、人間も豪快だ。そのうえ、義理人情に厚く、男気がある。こんな魅力的な人間を世間が放っておくわけがなく、交友関係も広い。
 私は映画の企画が立ちあがったとき、まっさきにF氏に相談にいった。
 そのときは出資業務は私の本業(?)ではなかったので、こんな面白い話があるのですがどうですかねと軽い相談だった。
 しかし今回は違った。何が何でもお金を用意しなければならないのだ。私は忙しいF氏に時間をつくってもらってオフィスへ説明にあがった。
 私はその席で包み隠さず、これまでのいきさつをすべて話した。
 そのうえでお金が必要なこと。ただし返却できるのは映画の公開後だから数年先になること。F氏に断られると他に手だてがないこと。F氏には何のメリットもないこと。すべてを真摯に話した。
 冷静に考えればF氏が首をタテにふる可能性は低い。
 私は冷静ではなかったのだろう。切羽詰まったウサギはライオンに変わることがあるというがそんな勢いだったと思う。映画をつくりたい、企画を流したくない。その想いだけを何度も何度も熱く語った。
 私はこの場で返事を得る心づもりだった。
 冷静に考えれば誰だって断る内容だ。熱意と情熱と勢いしかF氏をくどく手だてはないと思っていた。
 F氏は私の話をきいてしばらく考え込んだ。十分くらいだろうか。私にはかなり長い時間に感じられた。F氏は穏やかな笑顔を浮かべると
「わかりました」
 といってくださったのだ。
「一千万でいいですか。それなら用意しましょう。ただしこれは映画へ出資するのではありません。西林さんの熱意に動かされて用意するのです。西林さんへお渡しするのです。でも、だからって重荷に感じてもらわなくてもいいですよ。映画は水物だということはわかっています。悪くても七百万くらいは返ってくるでしょ。もし儲かったらその分は西林さんが取ってください。まずはいい映画をつくってください」
 私はうれしさのあまり張り詰めていたものがほぐれ、膝から崩れてしまいそうだった。F氏の誠意にどう答えていいのかわからないまま、ありがとうございますと何度も何度も頭をさげるだけだった。
 その帰り、一息いれるために立ち寄ったカフェで、白羽監督と溝上さんに電話を入れた。
「ほんまか。ようやった!」
 白羽監督の弾んだ声がした。
「本当ですか。それはすごい」
 溝上さんも冷静だけれど感心されている様子が伝わった。

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