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2-2 製作と制作がついに決裂。


 その後も水面下でいろいろな調整を試みたけれど、A氏とB氏が納得することはなかった。また、制作サイドも折れることはなく、藤さんでこの夏に撮影というカードに固執した。
 結局、製作サイドと制作サイドが決裂することで決着はみた。
 条件は、企画開発費の二百万円は、取材費や交通費や脚本料として精算する。いま完成している脚本の著作権は制作サイド側、近代映画協会に帰属する。この脚本を活かすも殺すも制作サイド次第で、今後この企画に関して製作サイドは一切口をださないという契約書がかわされた。
 私は正直にいってショックと混乱のなかにいた。
 夢にまでみた撮影まであと四ヵ月だったのだ。
 そのために毎月定例会議を開き、金沢や能登へ足を運んできたのだ。何度もやり直しをしてぶ厚い企画書を書きあげ、四方八方に映画をつくる、映画にでると吹聴しまくったのだ。それだけではない。私は私なりに少しでも出資が期待できそうな知り合いにはかたっぱしから説明にまわってきたのだ。
 それが突然の頓挫だ。撮影の四ヵ月前になっての頓挫だ。
 正直、どうして頓挫したのか、コトの運びがうまく理解できなかった。
 何がいけなくてこうなったのかよくわからなかった。
 ひとつだけ確かなことは、いざこの夏に撮影しようとしても、お金が一銭もないという事実だった。
 決裂が決定した翌日、白羽監督から連絡があった。明日、会えないかという。
 白羽監督は溝上さんといっしょに東京へ戻り、亀田さんも交えて今後の対策を練った上で大阪へトンボ帰りするという。
 翌日の午後、茶屋町の毎日放送の一階のカフェで会った。
 実は決裂が決まってから、私はひとつのことをずっと考えていた。妻にも相談した。
 映画の活動をこのままつづけていいものかどうか、ということだった。
 私はA氏の誘いでこの企画に参加することになった。筋からいえばA氏サイドの人間ということになる。
 しかし物づくりという共通点をもつ白羽監督や溝上さんとはこの半年でぐっと仲良くなった。決裂騒ぎが起こった会議の席上で
「お前はいつからそっちサイドの人間になったんだ」
 とA氏から嫌みをいわれたほどだった。
 せっかくここまで関わってきたのだからできるなら最後までがんばりたい。しかしA氏が離れた以上、私も身を引くのが筋ではないだろうか。
 このことをずっと考えていた。
 妻は身を引くことを勧めた。
 妻はA氏の気持ちを思う以上に、私の本業がおろそかになることを心配していたのだ。映画にのめりこむあまり事務所が傾いては本末転倒だという。
 確かに事務所の売り上げはいっときに比べると下向ぎみだった。しかしそれと映画は関係ない話だった。
 私は答えを見いだせないまま茶屋町へ向かった。白羽監督に会えば率直に相談してみようと思いながら。
 ところが白羽監督に会うと、監督は私のことなどまったくおかまいなしに一方的にまくしたてるのだった。いつにない厳しい表情で。ときには怒りを滲ませながら。
「とりあえず金をつくらなアカン。正直にいって溝上さんも亀田さんも怒っているし、あきれてもいる。こっちからお願いして入ってもらった企画や。もう一度二人を本気にするには金をつくらなアカン。金をつくらな、なくなるんやで。流れるんやで。ごちゃごちゃいうてる時間はもうないわ。オレたちでやるしかないんや」
 圧倒的な迫力だった。
 まわりの状況も私の立場も、そんなことはおかまいなしだった。わがままといわれようが、自分本意といわれようが、そんなこともおかまいなしだった。ただ目の前の企画が流れることをなんとか阻止したいという、数年ぶりにめぐってきたチャンスをなんとか手にいれたい。ただそれだけに今のすべてを賭けている迫力だった。
 私はそのときに二つのことに心を打たれた。
 ひとつは映画監督の性を垣間見た気がしたことだ。
 ああ、これが映画監督という生き物で、映画をつくるためなら他人の事情や置かれている状況など二の次にしてでも前へ進む力をむきだしにする。
 もうひとつは、危機的状況で頼る相手が私だということだ。
 それは消去法の結果かもしれない。A氏とB氏とは決裂し、溝上さんも亀田さんも熱が冷めかけている以上、残るのはこの私しかいないだけかもしれない。
 しかしそれでも白羽監督がいっしょに動こうといってくれたのはうれしかった。具体的な方法はなかったけれど、私は動く気になっていた。

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