1-3 映画はこうしてできあがる。
映画にはさまざまな人がかかわってできていく。
素人の私が知っているだけでも、監督がいて、脚本家がいて、カメラマンがいて、美術や録音の人がいて、さらにプロデューサーやら何やらたくさんの人が参加していく。
この会議ではまず、溝上氏による役割の説明からはじまった。
映画のクレジットでいつも疑問に思っていたのは、製作と制作の違いだった。
衣偏がつくセイサクとつかないセイサクはどう違うのか?
溝上氏は端的に説明してくれた。
映画はお金がなくてはできない。お金をだす人、あるいはお金を工面する人は製作と呼ばれる。カタカナで表記すればエグゼクティブプロデューサーだ。出資契約をすると、期日までに自分だでそうが、企業等から工面しようがその契約金額をすべて用意しなければならない。金を集めるという重要なポジションを担う人なのでクレジットにはトップで紹介される。ちなみに下に衣がつかない制作は、映画づくりを請け負う会社を指す。
プロデューサーは、全体を統括する人。お金集めにも参画するし、企画会議や脚本会議にも参加するし、撮影の現場にも立ち会って万が一のときに備える。
ラインプロデューサーは撮影現場の管理を主に担当する。
今回の企画でいえば、大阪のA氏と石川県のB氏が製作、エグゼクティブプロデューサーということになり、制作は近代映画協会。プロデューサーは溝上氏と亀田氏ということになる。
私には企画という役割が振り当てられた。
出資者への企画書を作成したり、広報やプロモーションの企画を担当するというわけだ。
この役割分担に異論は誰もなかった。
やがて大まかなスケジュールが検討された。
まずは企画である。
今回は能登の映画をつくろうというだけで、小説や漫画などの原作があるわけではない。脚本家を決めて、現地を取材して、映画のストーリーを固めなければならない。
脚本があがるとキャスティングである。
同時にスタッフの選定となる。助監督、撮影、照明、録音ばかりではない。一本の映画づくりかかわるスタッフは、美術や衣装やメイクなど四十名か五十名の大所帯となる。一日分のギャラもばかにできない金額だ。雨で一日伸びるだけで数百万円が飛んでいくという。
そして撮影である。
撮影が終わったからといって完成ではない。編集作業が待っている。
膨大な撮影フィルムからベストなシーンを選んで、さらに効果的に編集していくのだ。この段階で効果音や音楽が加えられて完成へ近づいていく。
ゼロ号試写という関係者だけの試写会を行って、次に配給会社へプレゼンテーションを兼ねた試写会を行う。
配給会社が決まると公開へ向けての作業となる。
公開日にあわせてポスターやパンフレットなど宣伝ツールを作成し、プロモーションを展開する。
そして公開である。
今回の映画の場合、溝上さんの大まかなスケジュールによると年内一杯で企画と脚本を固め、年明けの二〇〇六年からキャスティング。撮影はその年の五月頃。公開は再来年、二〇〇七年の春をめざすとのことだった。
映画の製作費は、溝上さんの提案で一億円以内に抑えることに決まった。
この規模ならなんとか回収することは可能だけれど、これ以上になると、万が一のときは出資者に迷惑がかかることがある。映画はビジネスであって賭けではないというが近代映画協会の基本的な考えだ。採算の合わない企画を進めるわけにはいかない。
近々の作業としては、製作サイドは九月一杯をめどに二百万円の企画開発費を用意する。制作サイドは脚本家を決定しておく。
おそらくさまざまな難題がふりかかるだろうけれど、来年の撮影と再来年の公開をめざして、全員で力をあわせてがんばるという決意を確認して、その日の会議は終わった。
「なにぶん映画づくりに関しては素人なので、私たちは金はだすが口はださないということを基本姿勢にしたい。映画づくりに参加できるなんて夢にも思っていなかったので、ぜひともがんばる。よろしくお願いしたい」
製作のA氏の言葉に、
「そのスタンスが一番大切なのです。映画づくりに素人も玄人も関係ありません。いい映画をつくりたいという思いが一番大切なのです。ぜひ、いっしょにいい映画をつくりましょう」
白羽監督が力強い声でそういって、出席者一同、明日の成功を約束しあった。
「しかし映画って時間がかかるものなのですね」
広告の世界からみるとなんと悠長なスケジュールだろうと私は思っていた。広告のキャンペーンは、オリエンテーションから数ヵ月で実施なんてざらなのだ。
「われわれのような独立系の映画は時間がかかるんですよ」
溝上さんがポツリといったが、そのときの私は言葉の意味を本当にはわかっていなかった。
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