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1-11 会議のあとのお楽しみ。


 大阪での定例会議は、A氏のオフィスの会議室で、月に一度のペースで行われていた。
 その席でシナハンの成果が報告され、シノプシスからハコ書きに進展したことが報告された。
 製作をはじめて担当するB氏からは、協力者への効果的な説得方法の相談などもあった。そして毎回、遅れ気味になっているけれど、今後のスケジュールが溝上さんからきっちりと報告され、確認された。
 白羽監督、溝上さん、亀田さんに共通するものがある。それはグルメだということ。
 映画界には食いしん坊も飲んべえも多いが、「本当においしいもの」を探る情熱を持ち合わせている人は少ないという。
 そんなメンバーが取り組む映画だから、『海とキリコとアオイ』は、日本映画ではめずらしい、美味しいものがでてくる映画にしようと企てられていた。
 ただ、美味しいものがでてくるだけではいけない。食材や料理が美味しくみえる、ということが映画的には肝要で、美味しそうに見えて、食欲が湧かなければ取り組む意味がない。
 映画を見終わって「あれ食べたいなー」と思わせたら成功だ。「バベットの晩餐会」のフランス料理のフルコースのように。「初恋のきた道」の愛のきのこ餃子のように。「暗殺のオペラ」のイタリアの稀少生ハム、クラテッロのように。そして「お茶漬の味」で鶴田浩二が勧める中華そばのように。
 食についてなら、大阪は食い倒れの町だ。私も食べることは大好きだ。
 かくして会議のあとは白羽監督と溝上さんと私とで、毎回、大阪のうまいもんを食べ歩くようになった(この時期の亀田さんは、別の映画の撮影現場に入っていてそちらの仕事で精一杯だった)。
 白羽監督が堂山の「新田」へみんなを連れて行けば、次の会議の後は私が千日前の「徳家」へ案内した。やがて大阪寿司の「夷左翁」、串揚げの「知多留」、四川料理の「福龍園」など、白羽監督と競い合ってうまいもん処をまわった。
 溝上さんも会議後の食事をとても楽しみにしているとわかると、さらに店選びにはチカラが入ったものだ。
 食事の後は酒である。
 食だけでなくお酒もみんないける口だったので一次会で終わるわけがなかった。
 堂山の「ムルソー」、曾根崎の「インスパイアー」「北サンボア」、江戸堀の「バー立山」、ミナミの「ナジャ」「チルドレン」などのカウンターでワインやウイスキーを飲んだ。
 夜の会合に参加してよかったことは、白羽監督や溝上さんとコミュニケーションを密にできたことだけではない。映画についての多くの知識、それも現場でたたきあげてきた人からの知識を得ることができたことだ。最新の業界事情も聞けたし、マスコミでは発表できない裏話もたくさん聞けた。
 広告業界ならちっぽけだけれど実績はあるものの、映画についてなら私は右も左もわからない新人だ。夜のカウンターは、私にとって映画の大学になったのだ。
 もちろん、話題の中心にあるのは『海とキリコとアオイ』についてだった。
 どのようにストーリーを展開していこうかとか、能登のあの風習を取り入れると最後のシーンが生きてくるなとか、シノプシスの進展にともなって『海とキリコとアオイ』を育てていくことに言葉が熱くなっていった。
「映画をつくることは誰でもできる。この映画をつくる意義をみつけないと、ただの商業映画になってしまう。そうなると淋しいよね」
 溝上さんの言葉に白羽監督は大きくうなずくと、こんなアイデアはどうかと応えていく。そんな応酬がつづく熱い時間はあっという間に過ぎていく。
 いい歳をした大人が、誰に頼まれたわけでもないし、陽の目をみるかどうかわかりもしない映画について、目を輝かせて議論をする。時間を忘れて話し込む。
 酒の席になると、明るく朗らかな話題だけにならないのが世の常だ。
 いつも女の話になる人がいる。金儲けの話になる人、愚痴になる人、人の悪口になる人がいる。人間、酒を飲んだときは本性が現れるものだ。その点、このふたりは映画の話がほとんどだ。心底、映画を愛しているんだなと思う。
 何事もそうだけれど、人の心を動かすのは熱量だと思う。言葉でもいい。絵でもいい。映画でもいい。芝居でもいい。それを発表するまでにどれだけ考え、議論をして、汗と情熱を注いできたか。それらの総量が観る人、読む人の心を動かすと思うのだ。
 口先や小手先のものに、その先はない。
 私と白羽監督、私と溝上さんは、夜の席を重ねるたびに意気を投合していった。

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